第130回 収入の3分の2を弱者に寄付する市長(オーストリア)

 



オーストリアで、首都ウィーンに次ぐ第2の都市グラーツは、人口30万。大学、美術館、オペラハウス、古城。その美しい街は世界遺産に指定されている。

このグラーツの市長エルケ・カーが、2023年世界市長賞に輝いた。「市議会議員および市長として、市と住民に対する無私の献身」と評価された。

国の中では裕福な都市だが、当然、貧しい人たちもいる。市長エルケ・カーも移民の多い地区で錠前屋の娘として育った。商業高校卒業後、銀行で働きながら、夜学に通った。

エルケは、幼い頃から「団結と社会正義に満ちた社会を作りたい」と思っていた。ある日、「あなたの価値観は共産主義ではないか」と先生に言われ、共産党事務所を訪ねた。以来、党活動に打ち込み、20代初めに党員になった。10年後、市議会議員に初当選。30年近く市議を続け、2021年、市長となった。

ところが、オーストリア国会には今も共産党は1議席もない。国全体の共産主義嫌いの風潮は日本と似ている。なのに、なぜグラーツ市では“政権”を握ることができたのか。

道を拓いたのは、かつてのグラーツ共産党代表アーネスト・カルテネッガーだった。彼は、議員としての自らの賃金を労働者の平均賃金(現在2000ユーロ)と同じにするため、3分の2を寄付して、市の福祉サービスからもれ落ちた人たちの緊急手当に使うことにした。この「ロビン・フッド」策は党の内規となり、全議員が寄付を続けた。彼が初当選した80年代1・8%だった共産党は、2003年21%に躍進。

彼が病気で引退した後、党を率いたのはエルケだった。2017年に20・3%で第2党に。 2021年には29%をとって最大政党に。同年、共産党、緑の党、社民党による3党連立の“政権”ができて、初の共産党市長・初の女性市長が誕生した。

オーストリアに限らずヨーロッパの地方議会は、比例代表制選挙が多い。政党は男女交互の候補者リストを作るので、男女半々に近い議会となる。市長選はない。市長は連立政党間の協議で決まり、通常は市議選で最高得票をとった党の代表が就く。いわゆる議院内閣制だ。

今日のポスターは、エルケ・カー市長肝いりの企画「グラーツ女性賞」の募集に使われた。毎年、グラーツ市の女性が政治・社会的にエンパワーするようなプロジェクト1つが選ばれ、6000ユーロ(約100万円)が授与される。国際女性デーの3月8日に応募が締め切られ、5月に授章式がある。


エルケ・カー市長は、公務・党務で超多忙な中、数多くの私の質問に答え、ポスターの使用許可もくれた。フィーレン ダンク!

(2024年5月10日号)


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