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第121回 男性ホルモンに毒された屁理屈で戦争は始まる(アメリカ)

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1945年8月6日広島原爆、8月9日長崎原爆、8月15日終戦。8月、私たちは憲法9条を手に反戦を誓う。 アメリカの反戦運動団体「コード・ピンク」は、なかなかのやり手だ。彼女たちがつくったポスターの 「戦争やめよう、楽しいことしよう」というスローガンは、 1 960 年代の「Make love Not war」を ひねったものだろう 。 「コード・ピンク」という名も、ひねりが効いている。2001年の9・11同時多発テロ後、ブッシュ政権はアフガニスタン・イラク戦争に突入。国土安全保障局は、コードネームを定めてテロ対策に備えた。火災発生はコード・レッド、心拍停止はコード・ブルー、子どもの誘拐はコード・ピンク…。女たちは「子ども=女=ピンク」という性による色の決めつけにのけぞった。2002年、彼女たちは、「米軍侵攻は人への思いやりに対する最高レベルの危機である。思いやりには女も男もない」と宣言。危機対策の新組織をつくって、「コード・ピンク」と命名した。 女性主導の反戦運動の意義はこうだ。 「私たちは、男より女が優れているとか、純粋だとか、生まれつき養育力がある、などというつもりは毛頭ない。ただ、男たちは戦争にかまけ過ぎ。命を守ってきたのは女たちだったのだ」 コード・ピンクの最初の抗議は、ホワイトハウス前のハンストだった。「戦争は男性ホルモンに毒された屁理屈で始まる」「戦争は女性問題。戦争は女たちを家の中に子どもと置き去りにするだけ」と訴え、逮捕や収監をものともせず40日も続けた。 ■ 2003年のイラク空爆直前には、代表団5人をイラクに派遣。代表にはイラクで息子を亡くした母親、現役兵士の母親を入れた。 また、イラク人女性6人を米国に連れてきて、米軍進攻が、イラク女性にどんな影響を与えたかをアメリカ国民に知らしめた。2004年、ファルージャで、米軍が数千人の民間人を殺害したことを明らかにし、ファルージャ難民に60万ドル相当の支援金を贈った。 2009年には「Ground the Drones(ドローンを飛ばすな)」というキャンペーンをしかけた。オバマ政権はドローン攻撃の標的はテロの首謀者や拠点だと言ったが、多くの民間人が殺されていると、抗議を止めなかった。 2023年2月18日土曜日、ワシントンD.C.のレストランを急襲。食事中のバイデン大統領に向かって「お

第120回 立ち上がれ10億人の女たち(クロアチア)

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クロアチア、首都ザグレブ。2009年4月2日、夜8時。アメリカの劇作家イヴ・エンスラー本人が登場して『ヴァギナ・モノローグ』の幕が開いた。女性への性暴力根絶をめざす一人芝居だ。 ポスターに描かれているのはタンポポの綿毛ではない。ヴァギナ、女性器である。イヴ・エンスラーがクロアチアにやって来たのは、この国にラダ・ボリッチがいたからだ。このポスターを私が紹介できるのも、ラダ・ボリッチがクロアチアからポスターを持ってきてくれたからだ。 ■ 旧ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェゴビナをめぐって、1992年、国土と民心を破壊しつくす民族紛争が起きた。独立派のクロアチア人vs反独立派のセルビア人。このセルビアをNATOとアメリカが空爆する殺戮戦が続いた。 言語学者で女性運動家のラダは紛争の渦中、「戦争被害女性センター」を創設。民族や宗教の違いを超えて女たちの受け入れを決行した。そんなラダのもとにアメリカのイヴ・エンスラーから「何かできることはないか」との手紙が来た。 2人の交流は続き、90年代末、「女性への暴力が根絶される日まで運動を広めよう」と連帯の輪を築いた。それが、今に続く国際的運動V—Dayだ。VはヴァギナのV、ヴィクトリーのV。 ■ クロアチアにやって来る前、イヴ・エンスラーは、コンゴのパンジ病院にいた。後にノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師で知られる、あの病院だ。東部コンゴに埋蔵されるレアメタルを略奪して資金源にする武装勢力。彼らは、女性を殺戮・強姦し、抵抗力を根こそぎ奪う。同医師は1999年以来、心身を破壊された何万人もの女性や少女たちを無料で治療してきた。同時に、国際社会に向かって叫んできた。「あなたのスマホは、女性の血で染まったレアメタルを使っているんですよ」。 コンゴでもクロアチアでも、加害者の処罰は難しい。被害者が声を上げないからだ。必要なのは、法廷に立って加害者を告発する女性だ。ラダ・ボリッチは、女性に力をつけようと、クロアチアを超えてアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、キプロス、ギリシャ、マケドニア、モンテネグロ、ルーマニア、セルビア、スロベニアにV—Dayを広めた。 日本にも、NPO法人「青い空」の浜千加子さんがいる。V—Dayの歌は『立ち上がる10億人』。世界の人口70億人のうちの約10億人が暴力

第119回 夏だ、女のキャンプだ、フェム島だ(デンマーク)

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6月は、日本人には鬱陶しい梅雨だが、北欧人には、1年で最も美しい心弾む季節だ。 このポスターは、6月から8月にかけてフェム島で開かれる女性たちのキャンプ参加を呼びかけている。デンマーク語で書かれているのは「新しい女性キャンプ」。40年前の1983年のものだ。 フェム島は、コペンハーゲンから電車で2時間ほどのローラン島の、さらに北方の海に浮かぶ総面積11・38㎢の小島だ。ローラン島からフェリーで1時間。光り輝く海、一面の花畑が広がる。 始まったのは、女性解放運動真っ盛りの1971年。今も毎夏、学生から年金生活者まで大勢が集まる。申し込みは3月8日の女性デーからだ。 この女性だけのキャンプを始めたのは、右下に書かれている、 Kvindehuset (クヴィンネフーセ、女性の家)に集うレッド・ストッキングズの女たちだ。女性の家は、コペンハーゲン中心部にあるビル。ここは70年代、女性たちが占拠した建物のひとつで、現在に至るまで、ダンス、音楽会、体操、映画会、講演会などに利用されている。人気のレズビアン・バーもある。 キャンプの2カ月間、女性と子どもたち(男子は12歳以下)は、電気もガスもなくて、トイレはバケツという離島で、何をするのか。 まずはテントを張る作業週間から始まる。台所用テント、バー用テント、子ども用テント、トイレ用テント、寝室用テント(4つか5つ)。何から何まで女手で行なう。 子ども週間、スポーツ週間、体と心の週間、国際週間、創作週間、ディベート週間、全員参加週間…等々。各週間にはテーマがあって、1977年の場合、「農業」「女性と暴力」「母性神話」「労働市場と女性」「演劇と音楽」「女性のフォークハイスクール」「レズビアンであること」だった。 最終の週は、ゴミを集めて後片付けをして、テントをたたんで、名残を惜しむ。 最も重要なのは女たちの連帯と解放。男性主導社会で息苦しさを感じた女性たちが、女だけの世界で、自然と一体となって過ごす。DVや失恋で心身がどん底の女性たちも、ここに癒しを求める。 キャンプの案内広告は、かつてはポスターだったが、いまはインターネットだけ。この貴重なポスターは「日本の女性たちに役立てるのなら」と、20年ほど前、オーフス女性博物館を訪れた時、館長から寄贈された。 (2023年6月10日号)

第118回 マウンティングはもううんざりだ(ノルウェー)

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このポスターは、退屈な記念写真ではない。右のノルウェー語がふるっている。 「ヴィーケン・エネルギーの取締役たちです。残念ながら、やらせではありません。ま、ガンバッテネ、男性諸君!」  ヴィーケン・エネルギーは、配電網や地域暖房事業の大企業だが、取締役の全員が男性だった。そこで、笑いものに使われてしまったのだ。 作ったのは、政府の男女平等法推進機関である男女平等センター。1990年代末から2000年初めのことだ。当時、ノルウェーでは「閣僚の4割以上が女性」は当たり前。そこに現れたのが、この「男だらけの取締役シリーズ」のポスターだった。 ポスター右下にある「女性人材データベース」は、男女平等センターが仕掛けた新プロジェクトだ。リンク先をクリックすると、女性たちの履歴、専門分野、連絡先が出てくる。人材を探す会社がポスト名を打ち込むと、たちどころに女性候補者が現れる。登録者は3000人以上。私が会った同センターの事務局長は「取締役や管理職などトップにふさわしい実績のある女性は、いっぱいいるんです」と言った。 ノルウェー経済界は、こうした痛烈パンチに見舞われて、変わった。2003年、会社法に「取締役クオータ制」が加筆され、2008年から取締役会は女性を4割にせよと命じられた。 さて、わが日本。 女性をもてあそぶメールが公開されてもなお、選挙で圧勝した神奈川県の黒岩祐治知事。確か2015年、彼は女性が活躍するための啓発事業を始めた。そのポスターは、「女性が、どんどん主役になる」とのスローガンを掲げ、黒スーツの男性11人が仁王立ち。黒岩知事を真ん中に、カルロス・ゴーン日産社長、ファンケル社長、富士通社長、横浜銀行社長、資生堂社長…。 主役どころか「脇役でもいいから安定した職に就きたい」と願う女たちの境遇などどこ吹く風の、マウンティング・イメージだ。 マウンティングとは、動物界でオスが優位性を表すために使うしぐさのこと。人間界では、男性 が「どうだ」とばかり、上から目線丸 出しで女性に接する言動をいう。 マウンティングはまだ、ある。黒岩知事を真ん中に、「女性活躍応援団」と称する男性社長15人衆が座っているチラシ。社長たちは関連イベントの講師になって壇上から社員を啓発するのだとか。 4半世紀前のノルウェーのポスターで、取締役男性たちは笑いものになるのを承知