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第125回 男はみんなこうしたもの(ドイツ)

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これは、ドキュメンタリー映画 * 『不屈の女たち』(2021)のポスターだ。古めかしい演壇に真っ赤なバッグ。ドイツを象徴する鷲は、なぜか右を向いて笑っている。 ジャーナリストのトルステン・ケルナー(1965〜)が、ドイツ連邦議会に挑んだ女たちの闘いを映像で描いた。 はじめに、ドボルザークの『新世界』が流れる。指揮は“マッチョ”のカラヤンだ。男だらけの楽団、内閣、国会、マスコミ…黒ずくめの「旧世界」を皮肉ったのだろう。 ケルナー監督は映画について「誰もが恥ずかしいと思って見てほしい。むろん僕は男ですから人一倍恥ずかしい」とメディアに語る。実際、恥ずべき性差別のオンパレードだ。 ■ 初の女性閣僚に「この中では貴女も男性です」とのたまう首相アデナウワー。キリスト教民主同盟CDU大会で演説する女性連合代表を不快そうににらむ党首エアハルト。議場で社会民主党SPD女性議員の背中を触って「ノーブラか否か調べた」とほざく男性議員。家庭内強姦に刑罰を求めた女性議員に「誰も君とは寝ないよ」などと野次の嵐。セクハラを取り上げた女性議員に「政治問題にせず人間的解決が妥当では」と諭す男性ジャーナリスト。青年部長に就任した女性議員を紹介する男性議員に「あなたたち“交渉”したの」とニヤける首相ブラント。議会の役員6人全て女性となった緑の党を「女たちは男たちを情け容赦なく追い出した」と報じる男性ジャーナリスト。極めつけは、2005年のテレビ討論で首相シュレーダーがメルケルに吐いたセリフだ。「本当? 貴女の下で連立を組むという提案に我が党が応じるとでも? しかも貴女が首相に? 節度を守らねば」 あぁ、1990年前後の東京都議会も男の牙城だった。新参議員だった私への男性議員らのセクハラの数々が、昨日の事のように蘇ってきた。 ■ それにしても、ドイツ女性議員の芯の強さよ。70年代に「次の選挙では女性議員を2倍以上にする」と豪語したSPDの女性。「ミサイルは不要。必要なのは新しい男」と言い放った緑の党の女性。「軍拡反対は男性より強力です。(女性を)美化はしませんが、女性には日常の生活がより身近なのです」と超党派女性議員の軍拡反対を代弁した、これも緑の党の女性。「政治はとても大切で、男だけに任せておけない」はSPDの女性の名言だ。 映画の最後は、新進気鋭の女性指揮者、ミルガ・グラジニーテ

第124回 性的搾取を許さない町へ(スペイン)

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この9月、私はノルウェーで地方選挙を現地取材していたのだが、思いがけなく、親友が「航空券をプレゼントするから数日間アリカンテに遊びに行こう」と誘ってくれた。オスロから直行便で3時間半。生まれて初めてのスペインだった。 スペイン・バレンシア州アリカンテ県アルテア。コスタ・ビアンカ(白い浜辺)がどこまでも広がる地中海沿いの町だった。「ノルウェーの1年の半分は白黒の世界でしょ。そこからカラーの別天地にやってくると、わくわくするのよ」と友人は言った。 ■ 滞在3日目だった。バスの窓からチラリと見えたポスターが気になった。町の明るさとは真逆な悲しさ漂う眼が、こちらを見ていた。 その夜、「あれは、女性が泣いている写真のような気がする。女性への暴力防止ポスターではないかしら。明日、また行ってみたい」と友人に話し、翌日、連れて行ってもらった。 ポスターはアルテア市警察署そばの掲示板に貼られていた。市の男女平等部がつくったもので、3つのことを知らせていた。 ①9月23日は、女性・子どもたちへの性的搾取と人身売買に反対する国際デーである。 ②9月19日11時30分、「アルテア・ラジオ」は人身売買反対の番組を放送する。 ③11月15日9時30分から14時までアルテア市庁舎で円卓会議を開く。会議にはアメリア・ティガヌス( Amelia Tiganus )が参加する。 ■ アメリアは『売春婦の反乱—被害者から活動家へ』(2021)の著者。世界に知れた買春処罰を求める女性解放運動家だ。1984年ルーマニアのガラチに生まれた。子どもの頃、性暴力の被害にあい、家では虐待され続けた。医師か教師を夢見ていた少女は、精神を病み不登校に。17歳でスペインのアリカンテに連れてこられて5年間売春を強要され、その後、悪の巣窟(彼女は「強制収容所」と呼ぶ)から脱出した。 彼女は、性的搾取をセックスワーク、性的搾取被害者をセックスワーカーなどと矮小化して、買春を容認する現象に徹底して異議を唱える。 「性的に搾取されている女性が世界に一人でもいる限り、男女平等や社会正義、あるいは良い社会について語ることは空しい」「私の個人的な歴史は政治問題なのだから、政治の関与を強く求める」と語る。 アルテア市議会は、今年末、買春処罰条例案を制定する予定だとか。 (2023年11月10日)