第129回 海の向こうのトランプに反撃!(フランス)

 


3・8国際女性デーに向けて、4日前の3月4日、フランスのヴェルサイユ宮殿で両院議会が開かれ、人工妊娠中絶権を憲法に明記する議案が可決された。

その生中継が、セーヌ川対岸にエッフェル塔を望むトロカデロ広場の巨大スクリーンに映し出された。

国会議長ヤエル・ブロン=ピヴェ。マクロン大統領派の政党「再生」に属する彼女は、木槌を振り上げて、「賛成780、反対72」の大差で憲法改正が決まったことを告げた。議場はスタンディングオベーション。ほぼ同時に、トロカデロ広場にあふれる市民たちも大歓声と感涙の嵐。エッフェル塔には「私のからだ、私の選択 Mon corps, mon choix」の文字が浮かび上がった。

議場では、憲法改正案を提出した急進左派「不服従のフランス」のマチルド・パノ議員が登壇して、世界との連帯を高らかに唱えた。「これは、私たちの勝利であり、世界の女たちの勝利です。アルゼンチン、アメリカ、アンドラ、イタリア、ハンガリー、ポーランドなどで中絶権を求めて闘う女たちの勝利なのです」

フランスが人工妊娠中絶を合法としたのは1975年だ。フランス女性の権利情報センターが作ったポスター「女性の進歩の世紀 1900—2000」(写真)を見てほしい。下から6段目の「ヴェイユ法」がそれである。道を開いたシモーヌ・ヴェイユ厚生相にちなんで名づけられた。なのに、なぜ、いま改めて、憲法に? それは、米連邦最高裁が妊娠中絶権を覆す判決を下したからだという。

思い出すのは、1983年のアメリカだ。妊娠中絶権を認めた「ロー対ウェイド判決」(1973)から10年。妊娠中絶に反対するレーガン大統領(当時)によって判決が覆される危機に瀕していた。ニューヨークのブロードウェイに女たちの声がこだました——「女の身体は女が決める」「個人的なことは政治的なこと」。当時、ニューヨークのコロンビア大学に留学していた私も一緒にこぶしをあげた。

そして2017年、トランプがアメリカ大統領に就任。彼は米連邦最高裁判事の過半数を保守派にした。2022年、その最高裁は「ロー対ウェイド判決」を破棄し、女性から中絶権を奪いとった。


アメリカのようにしてなるものか。フランスは、憲法で妊娠中絶権を保障するという世界初の選択をした。ひるがえって日本。とうの昔にお払い箱となったフランス刑法の堕胎罪をまねた「明治刑法の堕胎罪」がいまだに残る。中絶した女性が罰せられ、妊娠させた男性は罰せられない悪法だ。そう、私たちの反撃はこれからだ。

(2024年4月10日)


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