第114回 女性への暴力がなくなる日まで(台湾)


 

劇作家イヴ・エンスラーは、1996年、『ヴァギナ・モノローグ』を書いた。翌年には、ニューヨークのオフ・オフ・ブロードウェイで自らが演じる一人芝居を挙行した。これが世界を揺るがす大地震に発展した。

ニューヨーク・タイムズは「90年代の最も重要な社会派演劇作品」と評した。日本を含め140カ国以上で上演され、トニー賞という演劇界最高の賞も取った。

イヴ・エンスラーはいう。「それまでヴァギナという言葉を口にしたことなどありませんでした。友だちも皆、何か口に出してはいけないものと見なして、『あそこ』、『下のほう』と言うだけでした」。

そこで彼女は200人以上の女たちにヴァギナに関するインタビューをして、独白形式にまとめあげた。名前すら呼ばれず隠されてきたタブー中のタブーである女性の身体の一部が、「意思に反して、さげすまれ、嘲笑され、侵入され、支配され、中絶対象にされ、妊娠させられている、これは一体何なんだ」という激しい怒りが彼女を突き動かした。

イヴ・エンスラーは、同時に国際的女性運動「V-Day:性暴力がなくなる日まで」を立ち上げた。VはViolence、つまり暴力をさす。芝居で利益が出たら、10%を彼女が受け取り、90%は上演地の運動に使うというプロジェクトだ。


台湾上陸は2005年だった。上演に尽力した女性団体「台灣女人連線」の秘書長・陳書芳によると、V-Day運動に加わって、台北の紅坊劇場で初演されて以来、ほぼ毎年上演されている。

ポスターは、初上演から10年を記念する2015年のV-Dayのものだ。「ヴァギナ・モノローグ」は「陰道独白」。ヴァギナは「陰道」、モノローグは「独白」。  陰陽の陰は女性を意味することから、陰道を「女性の知識」と解することもできる。中央の字を私なりに訳すと「スカートの下、すべては私のもの、私のもの、私のもの」。

2005年から2015年まで、11の都市で27回上演、観客12000人。企画に加わった「希望の庭財団」は、DV被害者たちのトラウマを治癒・克服させる目的で演劇の訓練をし、彼女たちによる専属劇団「裸足のアリス」を誕生させた。その素人俳優371人が、プロの俳優に交じって舞台で自身の体験を語ったという。


台灣女人連線の秘書長は強調する。

「女たちはいまだに性的搾取に直面しています。性暴力だけではなく、女性は美しくなければという呪縛に縛られ、嫌がらせや覗き見の恐怖にもさらされています。特にネット上でのあの悪質さ!」

女たちの尊厳を取り戻す闘いは、続く。

(2023年1月1日号)


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