第87回 2020年10月10日 私は金で女性を買わない(アイルランド)

 

アイルランドは、2017年2月、金で性行為を買う人物を罰し、売る側を合法とする法律を制定した。スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、カナダ、フランスに続いて世界6番目の「買春禁止国」となった。

アイルランドといえば「セント・パトリックス・デー」を思い出す。

19世紀、アイルランド人は母国の飢饉・飢餓・迫害などを逃れて、アメリカにドッと移住した。だからニューヨークにはアイルランド系アメリカ人が多い。私が留学した大学の指導教授もその1人だった。

イギリスに支配された屈辱の歴史は、移住先でも消えなかった。黒人に準ずる差別を受けた。アイリッシュの警察官を嘲笑する映画もあった。だから年1回、3月17日はアイルランド人であることを誇り、連帯を見せる日になった。

アイルランドはカソリック教国で、離婚も人口妊娠中絶も最近まで禁止されるなど、女性差別の目立つ国だった。しかし、こうした私の表層的なイメージは、買春禁止法をめぐるアイルランド人の卓越した運動を知って吹っ飛んだ。

国会を動かす力になったのは「赤いライトを消せ」運動である。性暴力根絶団体や子どもの権利擁護団体から政党、労組、農協、私企業まで、なんと74団体、160万人をその傘下に集め、ついに買春禁止法を誕生させた。

10年間の運動を引っ張ったのは、女性差別撤廃や人権擁護の運動家デニース・チャールトン。彼女は、それまでの大戦略をビデオにまとめ、こう語る。

「売買春は国際的巨大産業ですが、真相が見えにくい。そこで、売春サバイバーの証言を聞く作業から始めました。証言の映像は議論の力になります。嘘を暴いたり真実を知らせたりするには映画やポスターなどのアート(芸術)が大事。これをソーシャルメディアで流しました」

法律を制定させて3年。今、アイルランドは、神話撲滅運動に移っている。

神話「売春は他の労働と同じような労働でしょ」

真実「最も危険だとされる仕事よりも売春は40倍も死亡率が高く、売春婦の6~8割が暴力や虐待の被害にあっています。そんな仕事は他にはありません」

神話「インターネットでエスコートをしますと言う女性は、独立した実業家でしょ」

真実「組織的犯罪組織と結びついている証拠が数多くあります。独立したビジネスと思わせるように宣伝しているだけです」。

そんなキャンペーン用ポスターの1枚がこれである。

 

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