第86回  〝買春〟は許されない! (フランス)


 新型コロナウイルスの蔓延で最も深刻な事態に陥るのは、もともと社会的に不利な立場に立たされていた人たちだ。非正規労働者、移民…なかでも性産業で働かざるをえない人たちの暮らしはいかばかりだろう。

2020年4月、フランスでは、27もの市民団体が連名でマクロン大統領や大臣に「売春せざるをえない人たちが政府の緊急経済支援対象から外されないように」との要望書を提出した。この背景には買春禁止法がある。

2016年、国を二分する長い論争の末、「売春は女性への暴力」とされ、買う側が罰せられることになった。罰金は47万円(3750ユーロ)だ。その一方、売春をやめようとする人には資金援助が用意され、不法滞在者には一定期間の滞在許可まで出されることになった。

買春禁止法推進運動を率いたのは、「ネスト・ムーブメント」(避難所運動)という団体だった。1971年創設以来、「売春婦たちとともに売春制度をなくそう、女性へのあらゆる暴力に反対しよう」と、啓発やロビー活動をしてきた。国内に34支部を持ち、専従職員20人と大勢のボランティアが働く。

今日のポスターは「ネスト・ムーブメント」がかつて企画編集した漫画本『サンドラのために』(1996年刊行)の宣伝に使われた。

物語の主人公は、ドリス(ポスターの左)とサンドラ(本の表紙の女性)の2人だ。

サンドラは10代で、小うるさい母親を嫌って家出。ボーイフレンドに人生を捧げようと決めて同棲するが、彼は甘言と暴力を巧みに使い分けてサンドラを売春の道に引きずり込む。

ドリスは暗い過去を封印した女性で、今は夫と息子がいる。サンドラの話を聞き、若い頃を思い出し、サンドラを売春組織から救い出そうと必死になる。

エイズや暴力など深刻なテーマを芸術作品に仕上げて「神業作家」とうたわれるスイスの漫画家デリブが絵を引き受けた。1年間で14万部が売れた。「売春への偏見が薄れて理解が進んだ」と大評判をとった。

さて、わが日本。お笑い芸人岡村隆史は、ラジオで自らが買春の常連であると語り「コロナあけたら、美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。なぜかと言えば、短期間でお金を稼がないと苦しいですから…だから今我慢しましょう」と公言して、女性団体から激しい抗議を浴びた。

岡村は、NHKの人気番組「チコちゃんに叱られる」のレギュラーである。こんな買春男を、チコちゃんは叱り飛ばす気配もない。買春容認社会の日本にこそ、『サンドラのために』は必要だ。

2020年9月10日

 

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