第84回  コロナに立ち向かうアフリカ女性研究者 (マリ共和国)


 直火に鍋をのせて料理をする、左手で子どもの手を引き右手で物を運ぶ、子どもと一緒に農作業をする、たきぎや布や食料を頭にのせて運ぶ、掃除をする、食べ物をよそう、膝の上で赤ん坊のおしめを変える…。布で赤ん坊を自分の体にまきつけている女性も多い。男性は、笛を吹いたり太鼓をたたいたり、といい気なものである。

「これ、西アフリカのマリの織物です。これをくれた薬学博士のロキア・サノゴは有名なフェミニストなんです」。

ローマ在住の友人マリア=グラッツィア・ジャンニケッダ(サッサリ大学教授)宅を訪問したときのこと。壁に貼られた一枚をじっと見ていた私に、そう語った。

ロキア・サノゴは1964年マリ生まれで、マリとイタリアの2つの大学で博士号を取得。大学で教えながら、WHOと共同で数々の国際研究に従事する。特に力を入れているのは、女性の性器切除(FGM)、妊産婦や新生児の死亡、不妊、更年期障害など女性に特有の健康問題を解決するために、薬草など伝統的薬剤による処方を取り入れた研究だ。

マリは、男女格差の際立つ世界最貧国のひとつだ。世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数」によると、世界153カ国のうち139位(ちなみに、日本も121位と恥ずかしいほど低い)。

識字率は33%前後ときわめて低いが、さらに、女性は男性の半分だという。いわゆる「子ども結婚」が蔓延し、少女の17%が15歳前に、52%が18歳前に結婚する。貧しさゆえ親は強制的に娘を結婚させる。結婚する少女・女性たちは性器切除されている。一夫多妻が残っており、子ども結婚は「家事奴隷・性奴隷の隠れ蓑」といわれている。

マリはサハラ砂漠南に広がる半乾燥地域にあり、地球温暖化によって年々農作物の収量が落ちている。それに加えて、アルカイダと関係のあるイスラム過激派武装勢力によって内戦状態にあり、国内難民が激増した。さらに、これでもかとダメージを与えたのは、新型コロナウイルス感染である。

先月、海外メディアからロキア・サノゴ博士の名前が流れてきた。「マダガスカルで採れる植物アルテミシア(ヨモギの一種)で、感染予防と治療に効果が出ました」と共同研究の成果を公表したのだ。先進国の特効薬開発競争とは別の「もうひとつの道」を追い続ける研究者がアフリカにいるのを、私は初めて知った。応援しよう。

2020年7月10日

 

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