第83回  多様な声を受け止める比例代表制 (ベルギー)




 ベルギーの医療保健水準は世界トップクラスで、コロナ対策も早かった。ところが、コロナによる致死率は世界一。その不名誉な地位に、ベルギー政府は「病院での死亡だけでなく介護施設や地域での感染が疑われる死亡も含めているので、算出方法が異なる」と断じた。

とはいえ、医療従事者のストレスは並大抵ではなさそうだ。5月になって、コロナ治療にあたる大病院を首相(女性)が激励に訪れた。看護師たちは、首相の車が滑り込む道路の両サイドに長い列を組んで立っていた。拍手で迎えるのかと思いきや、全員が次々と車にクルリと背を向けたのだ。

看護師の待遇が悪くなりかねない新法案への「抗議デモ」だった。「政府は私たちの要求に背を向けたでしょ」との看護師組合のコメントが冴えていた。このデモの後、首相は法案について話し合い続行を提案してきたと報道されている。

そんなベルギーを私が訪問したのは1994年だ。九州ぐらいのミニ国家なのに連邦制をとっていて、しかも公用語がフラマン語(オランダ語)、ワロン語(フランス語)とドイツ語の3つもあった。

このポスターは、当時、ベルギー政府の雇用・平等大臣を訪問したときに贈られた。「男女で均等のとれた賃金」と書かれている。男女平等を進めるために施行された「アファーマティブ・アクション(暫定的特別施策)法」の啓発だと大臣秘書が言った。よく見ると、女3人よりも男3人のほうが中央に寄って座っている。重い方(男)が工夫してくれれば平等になりますよ、というわけだ。

アファーマティブ・アクション法のほかにも性差別禁止法があって、性による差別撤廃への強い政治的意思を感じたが、秘書は「国会に女性はわずか9%。EUの顔ですから、もっと増やさなくては」とこぼした。あれから4半世紀。首相は女性、国会議員の4割を女性が占めるまでに増えた。

ベルギーは比例代表制選挙発祥の地。あのドント方式を考案したヴィクトール・ドントはベルギーの数学者であり法学者だ。

多言語、多宗教、多文化の歴史をかかえた国民の多様な意志を政治に反映させるには比例代表制しかない。政権は、選挙後の政党による話し合いで決まる。

連立政権までの話し合いは長く、1年たっても新政権が決まらなかったこともあるという。でも、小選挙区制を土台にした“男性中心・やりたい放題”一強政権より、民主主義度ははるかに上だと私は思う。

2020年6月10日

 

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