第77回 2019年12月10日 家でボクシングをするな!(ポーランド)


 めざす「女性の権利センター」は、ワルシャワ駅から15分ほど歩いた閑静な通りにあった。天秤にメスとオスがアレンジされたロゴマークがドアについていたので、一目で「ここだ」とわかった。2019年3月のことだった。

館長のウシュラ・ノバコウスカは、話題の大きなポスターを見せてくれた。

子どもを抱えておびえる女性。目のふちは黒く、眉毛には縫ったような小さな傷跡。うしろにボンヤリ見えるのは、ボクシングのリングのようだ。

「『家庭はリングじゃない。暴力をやめよ』と書かれています。2002年、2003年、私たちは、夫や恋人からの暴力を根絶するために、大々的なキャンペーンを打ちました。目的は、家庭内暴力の犯罪性を広く知らせること、暴力の被害者を守れるような法律に改正することでした」

ポスターだけでなく動画やハガキも作った。動画には、当時の大統領や首相や人気ボクサーが登場して、広報に一役買ってくれた。

長い共産党独裁から抜け出たポーランドが、EU加盟を果たしたのは2004年だ。加盟申請は1990年代に始まって、2003年の国民投票では77%以上が「EU加盟イエス」。

政府はEUの政策にあわせるために、男女平等に関しても国内法を改正する必要に迫られていた。女性の権利センターは、法務大臣あてのハガキ作戦を展開した。ハガキの表は、このポスターの写真。裏にはこう書かれていた。

「ポーランドでは、女・子どもの3分の1が家庭内暴力の被害者です。命を守りたかったら、女性と子どもたちは家を出るしかありません。ポーランドの法律は、被害者を守ってくれません。家を出るべきは犯罪者であって、被害者ではないはずです。加害者を家から追い出す命令、法廷審理の迅速化、被害者への無料の法的支援を法律で定めてください」

女性の権利センターには、「キャンペーン」のほか、「支援」「教育・研修」「法律」の4部門がある。性暴力被害者への法的アドバイスやカウンセラーの紹介、警察署・裁判所・病院への付きそい、シェルターへの移送…。法律専門家、ソーシャルワーカー、警察官などには、女性問題の研修をする。サバイバーで構成する劇団の公演は、大人気を博している。

だが、ポーランドは今、ポピュリズムの嵐に見舞われている。この10月の選挙では、EU懐疑派であり、カトリックに基づく反リベラル政党「法と正義」が単独過半数を獲得した。ポーランドの女たちは、またしても艱難辛苦の冬に突入した。

 

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