第76回  暴力と無縁なのが真の男(ホワイトリボン運動)


 1989年12月6日、カナダ・ケベック州。「俺はフェミニストが大嫌いだ!」

男はこう叫びながら、ライフルとナイフを持ってモントリオール理工科大学に侵入し、教室の女子大生のみ14人を銃殺した。次に廊下に出て女子大生ばかり何人にも重傷を負わせ、そのあげくに自殺した。 

後にわかったことだが、男の父親は常日ごろから暴力的で、「男性と同等になろうとする女性は男性の利益の侵害者だ」が口癖だった。

7歳のころ母親はそのDV夫と離婚したが、植え付けられた心の傷は癒えなかったのだろう。

襲撃事件2年後の1991年、カナダ男性3人がトロントで「女性への暴力を許さない男たちの運動」を立ち上げた。毎年、1125日から事件のあった12月6日までをキャンペーン期間とした。

シンボルは、ホワイトリボン。白いリボンなら、Tシャツの切れ端でも簡単に作れるからだ。こうして、“暴力とは無縁の男らしさ”を広める運動は始まった。

「ホワイトリボン運動」は、まず北欧に伝播してから、世界60カ国に広まった。日本も2016年に仲間入りした。

私がオーストリアのウィーンにある「ホワイトリボン運動」を訪問したのは2003年だった。

カーリーヘアのロメオは、奥から縦1㍍、横70㌢ほどの大きなポスター4枚を出してきた。オーストリアのレストラン、公衆トイレ、駅、広場に貼りめぐらされ、同時に、新聞や雑誌などで報道されたという。

4枚とも男性の後ろ姿だったが、それは「全ての男性の問題であることを知ってほしかったから」だそうだ。

1枚目は、暴力息子に悩んでいる父親の後ろ姿。2枚目は、妻を殴打する友人をうとましく思う男性の後ろ姿。3枚目は、母親に暴力をふるう父親を怖がる息子の後ろ姿。そして4枚目が今日のポスターだ。「暴力を嫌う、信頼できる同性の友人がほしい」と男性は言う。白いリボンの横に書かれたドイツ語は「暴力を拒否する男性、ホワイトリボンをつける男性」。

ロメオは、私に4枚のポスターを手渡しながら言った。

「先日、人気サッカー選手や有名アーチストが『モデルになります』と承諾してくれました。次のキャンペーンは正面を向いた男性です。きっと、あっという間に取られてしまうでしょうね。そうしたら、日本のあなたに差し上げられませんね」

 2019年11月10日

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