第75回  移民たちはまず地方選挙権を闘い取った(ノルウェー)


 9月、ノルウェーの統一地方選を取材するためにオスロへ飛んだ。オスロ市の保守党は市長候補にパキスタン系の女性弁護士をたてて政権奪還をねらっていた。現在のオスロ副市長はスリランカ出身の労働党の女性だし、環境問題の最高責任者は緑の党のベトナム系女性だ。多様な候補者群の舌戦は、まるでオリンピックのようだ。

移民女性の政治動向を知りたくて、少数派女性のためのNGO「ミラ・センター」に行った。アジア・アフリカ系女性たちが仕事にいそしんでいた。

センターは30年前、パキスタン系ノルウェー人のファーフラ・サリミと友人たちがポケットマネーで立ち上げた。移民の彼女たちは、大学を卒業しても、これぞという仕事にありつけない。そこで、「マイノリティ女性の権利拡充のために行動を起こさなくては」と、設立した。

70年代までは、さしものノルウェーでも移民に選挙権を与えなかった。定住した移民たちは「移民の選挙権獲得は、ノルウェー社会の民主主義のためだ」と訴えた。その結果、3年以上ノルウェーに住み、かつ永住権を持つ移民たちに、地方議会議員選挙権が与えられた。1983年のことだった。

ファーフラ・サリミはいう。「国政の選挙権までは認められませんでしたが、地方議員に立候補する権利、地方議員を選ぶ権利は、私たち移民の力で勝ち取ったものです」

ところが、移民の投票率は上がらない。投票のやり方がわからないという人が大勢いたのだ。センターは、マイノリティ女性を対象に選挙のノウハウを伝授する運動を始めた。路上にテーブルを広げて、多言語のチラシを並べ、通行人と対話した。移民の多い地方都市にも出向いた。投票率が上がりはじめた。

政党にも働きかけた。当時の政権党も、保守党(現首相の党、当時野党)も好意的に受けとめた。センターの活動に公的予算がつき、広いオフィスで7人の専従職員が働くまでに成長した。

日本と違ってノルウェーでは、政権を批判する団体であろうと、事と次第によっては公的補助金が出る。まして、説得力のある主張には政治が応える。帰り際、ファーフラの言葉が私の胸につきささった。

「これは30周年を祝うポスターです。でも30年の闘いで、イスラム女性への偏見や雇用における人種差別がノルウェーから消えたわけではない。日本における韓国人の扱われかたを本で読みましたが、多数派の日本人には、差別解消の責務があると思いますよ」

2019年10月10日

 

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