第72回 2019年7月10日 女たちよ「不可能」を要求せよ(デンマーク)


 この6月、デンマークで、中道左派が政権を奪い返した。現首相を擁する保守系の自由党は票を減らさなかったが、閣外協力の極右政党が大敗した。その結果、社会民主党を中心とする左派ブロックが勝ってしまったのだ。

社会民主党のメッテ・フレデリクセン党首が、この国で2人目の女性首相になる予定だ。1977年生まれ。労働組合LOに勤務後、23歳で国会議員に初当選した。

勝利の鍵は、社会民主党が、難民政策を厳格な方向に舵を切ったことのようだ。社会民主党はイスラム女性がまとうブルカやニカブ禁止に賛成。移民地区を「ゲットー」と呼んで犯罪取り締まりを強化したいわゆる「ゲットー・プラン」にも、難民の所持品没収法にも、賛成。

党首の勝利宣言をネットで見ていたら、「女たちよ、現実的であれ、不可能なことを要求せよ」という昔のスローガンが頭に浮かんできた。

ちょうど彼女が生まれた頃、デンマークでは、レッド・ストッキングという女性解放団体が一世を風靡していた。「個人の問題は政治の問題」と叫び、女性を縛る文化の徹底廃絶を訴えた。意表をつくデモンストレーションを放ってはそのたびに社会を驚かせた。

そのレッド・ストッキングが作ったポスターの一つがこれだ。一番上に「女たちよ」、次に「現実的であれ」、デモ隊の上には、「不可能なことを要求せよ」。

作成年は書かれていないが、オーデンセの女性図書館からポスターを譲り受けたとき、「1977年から1978年頃のもの」と聞いた。

このスローガンは何を意味するのか。「現実主義者であると同時に、不可能と思われることにも挑戦しろ」とも取れるし、「この現実を見よ、不可能なことを要求するしかないのだ」とも取れる。女性党首から私は前者を想起したのだが、レッド・ストッキングの女性たちの意図は後者だったに違いない。

そもそも、このスローガンは1968年のパリ5月革命で有名になった壁の落書きだ。大学生や高校生が中心になって反体制、反権威の一大蜂起となった。大学閉鎖、工場封鎖、カルチェラタン占拠、交通マヒ。スト参加者は1000万人に及び、ドゴール大統領退陣につながった。

さて今のデンマーク政界だが、社会民主党が連立を組もうとしている左派政党はすべて、厳格な移民難民政策に反対している。しかも社会民主党を除く左派政党は大きく支持を伸ばした。現右寄り政権の自由党との大連立か、左派連立か…かたずを飲んでいたら、6月28日、「オール左派政権誕生」とのニュースが入ってきた。どんな移民政策になるのか、興味津々だ。

 

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