第7回  いかれた女よ、臆病者よ、かわいこちゃんよ、おしゃべり女よ、集まれ!(ドイツ)

 



ドイツの新首都ベルリンに、女性が女性の自立のためにつくった小さな街ができたらしい――欧州連合EUからのニュースで、それを知った私は、2004年夏、取材に出かけた。

旧東ベルリン地区のローゼンタール広場近くに、その「女の街」はあった。中庭を囲むように6棟のビルが建てられていた。旧東ドイツ時代には、化粧品会社の工場だったという。その古いビルを、1992年に女性たちが買い取った。化学薬品で汚染されていた内部を除染し、快適な空間に作り替えた。総改装費は約25億円(186万ユーロ)だった。

案内された事務室の壁に貼ってあったのが、このポスターだ。

見るからに個性の強そうな女性ばかり。写真の上に書かれたドイツ語は、左から「バカ女」「泣き虫女」「なめたくなるほど可愛い女」「口軽女」という意味で、どれも女性に投げつけられてきた決まり文句だ。

そして、それぞれの形容詞とは似ても似つかぬタイプの女たちが、「だから、どうだっていうのよ」とすごみのある眼つきでじっとこちらを睨む。

案内してくれた女性が言った。

「女性なら誰でも、ここに来れば仕事にありつける、という意味が込められています。ええ、もちろんフェミニストの目で、女性蔑視の言葉を逆手にとって、皮肉っているのですよ」

この街の母体となったのは「女性生活協同組合」だった。街づくりの推進者の1人、カティエ・フォン・バイ博士によると、働く女性同士が支援しあう協同組合がドイツにできたのは19世紀だという。その長い伝統の延長線上で、ある一石が投じられた。女性解放運動が盛んだった80年代に、西ベルリン自由大学の女子大生が「女性が起業をして成功するには女性のためのビルを建てることだ」という論文を発表し、これが注目を集めた。そんなもろもろの機運がブレンドされて、「女の街」ができた。私が訪ねた時には60社がテナントとして入っていた。

2部屋約50㎡の場合、家賃は光熱費込みで月4万円と格安だ。それに、保育園、気分転換のできる広めの中庭、お茶や軽食をつくって食べられる共有のダイニングキッチン、おいしいレストランなど、働く女性なら誰でものどから手が出るほどほしいインフラが整っている。

大きな特典は、女性が経営者となる際の障害を乗り越えるためのノウハウを教えてもらえること。その拠点が「女性生活協同組合事務局」で、街の一角にあって、銀行からの借金のしかたや、税金対策や、営業宣伝活動の秘訣などを指南している。このような条件を整えたうえ、太陽光発電、雨水のトイレ用水装置など、建物は環境にやさしく造られている。

フェミニズムとエコロジーを合体させたこのプロジェクトは評判を呼び、EU、ドイツ連邦政府、ベルリン市(州)の3者が公的補助金を出すようになった。

「女の街」は、2011年にドイツ社民党(SPD)から、そして2013年にはベルリン市から、表彰された。

2013年6月10日

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