第71回 2019年6月10日 今あらためて「妊娠中絶権は人権」(フランス)


 この5月、アメリカ合衆国のアラバマ州は妊娠中絶禁止法を成立させた。

施行されると、強姦犯に妊娠させられた少女であっても、中絶したなら、少女も医師も逮捕されるというのだ。しかも今、似たような州法案が次々に提出されている。

「1973年の最高裁判決:ロー対ウェード裁判」によって、いかなる州であっても妊娠中絶ができるはずなのに、キリスト教福音派などは、「中絶はアメリカのホロコーストだ」と悪態をついてきた。

その筋から支持されるトランプ大統領も、連邦最高裁に保守派判事を指名し、「最高裁判決を葬る時が来た」とばかりに中絶反対派組織に秋波を送っている。

ここに紹介するポスターは、2000年に作成されたフランスの「ヴェイユ法25周年記念ポスター」である。「ヴェイユ法」は、1975年、ジスカール・デスタン大統領時代の厚生大臣シモーヌ・ヴェイユがつくった。これによってカトリックの国フランスの女性は、長年の悪夢からやっと解放された。

この時、宗教・医学界などから猛反対の火の手が上がった。しかしフランス女性たちは堕胎罪に、「ノン」の嵐で対抗した。

運動の中心は1971年の「343人宣言」だった。哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワール、女優カトリーヌ・ドヌーヴ、女性運動家ジゼル・アリミなど343人が「わたしも中絶しました」と告白した。

72年、強姦で妊娠させられた16歳の少女が母親や施術師とともに堕胎罪で逮捕されるに及んで、議論は沸騰点に達した。

厚生大臣シモーヌ・ヴェイユは、男性が98%の国会に、妊娠中絶合法化法案を提出してこう訴えた。

「自ら進んで中絶をしようと思う女性は一人もいません。女たちの話を聞けば、常に悲劇だとわかります。中絶とは常に深刻な事態なのです。堕胎罪のあるこの国で、毎年30万件もの中絶が非合法に行われている事実に目を背けてはなりません」

ヴェイユは国会で、「焼却炉に子どもを投げ込むようなものだ」と罵倒された。国会前では牧師など反対派のデモ、自宅や車にナチスの「カギ十字」の落書き…。

ヴェイユはユダヤ人で、一家は強制収容所に送られ、両親も兄弟も惨殺された。生き残った彼女は猛勉強の末に判事となった。その不屈の魂と弁舌の力で、合法化法を賛成多数で成立させた。

「中絶は権利だ ヴェイユ法から25年」と書かれたポスターを作ったのは、フランス家族計画運動MFPF。会員8000人以上。MFPFの性教育を受けるフランスの生徒は年間15万人にのぼる。

 

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