第69回  (z)r‘anaはDVを一瞬でわからせる(チェコ)








 2019年3月中旬、チェコのプラハ。

私が訪ねた「プロフェム」という調査・相談・企画を手がける女性団体は、ドナウ河南東の住宅地区にあった。アメリカからのインターンも含めて10人ほどの女性が、広く明るい部屋でパソコンに向かっていた。

広報担当のエヴァ・ミヒャルコバは、10年ほど前の3枚シリーズの傑作ポスターを探し出してくれた。

それは、DVの深刻さを一瞬でわからせる強烈なインパクトがあった。1枚目は、右目の赤いアザを隠そうとする女性。2枚目は子どもへの被害、3枚目はDVの神話の過ちを伝えたもので、作成は、芸術デザイン専門学校の学生たちだった。

今回は1枚目を解説しよう。

「下に書かれた『ズ ラーナ』というチェコ語が理解できると、もっとハッとしますよ。少し難しいのですが英訳してみますね」

カッコでくくられている「Z」は「ズ」と読む。カッコをはずした単語「ズ ラーナ」は、「朝に」とか「朝から」という意味で、ズのない「ラーナ」は「殴打」という意味だ。「ズ ラーナ」の「ズ」は弱く発音されるため、「ズ ラーナ」はチェコ人には「ラーナ」と聞こえるのだという。

「『ズ ラーナ』という日常に『暴力』を潜り込ませたのです。朝の出勤前でしょうか、女性は夫から殴られた右目のクマをサングラスで隠そうとしている。首にまかれた太い鉄の鎖はDVの恐ろしさの象徴です」

「ズ ラーナ」の下には、ごく小さな文字で「DV被害者の9298%は女性」とある。

チェコは2004年にEUに加盟した。以来、EUの男女平等政策を取り入れてくれるものと女性たちは期待したが、政府は動かない。DV根絶への最も優れた国際法規といわれる「イスタンブール条約」(2014年発効)を、いまだ批准しようとしない。だから民間の女性団体が目を光らせ、圧力をかけ続けているのである。

「今のチェコはEUに懐疑的なポピュリストが政権を握っています。この状況下でプロフェムが存在できるのは、EUやノルウェー政府(EU非加盟)の継続的な財政支援のおかげなのです。でも、自慢したいこともあります。チェコの初代大統領トマーシュを知っていますか?」

トマーシュは貧しい荷車引きの息子だったが、哲学の大学教授から国会議員になった人物で、最高額のお札に印刷されているチェコの聖徳太子だ。

「彼は女性差別を嫌悪し、1920年に憲法に女性参政権も含めた男女平等を書き入れました。それに、結婚したときには、自分の苗字を妻の苗字に変えたのです。時代を先取りした男性なのですよ」

2019年4月10日

 

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