第65回  ツール・ド・フランスへの道(ベルギー)


ベルギーの女の子が、競技用自転車に乗って、こう叫んでいる。

「女の子向きじゃない職業、見つけなくちゃ!」

キーワードの「女の子」にあたるフランス語は、2行目にあるfilles(フィーユ)だ。この言葉には、「台所や養鶏場などで働く下働き女」「女中」「商店などに雇われた女」「女給」「小間使い」という意味もある。

だから、ポスターの「女の子向き」とは、昔から女性に押しつけられてきた低賃金の単純補助労働という意味が込められている。

ポスターのプロのサイクリストは、女の子向きとは正反対の仕事だ。

ベルギーは、他のヨーロッパ諸国同様、日常生活のみならず、スポーツとしての自転車人気が高い。国技と言ってもいい。プロ・サイクリストを大勢輩出している。自動車の乗り入れが禁止されているサイクリング用道路網、サイクリスト用のホテルやキャンプ地も完備されている。1913年から100年以上の歴史と伝統を持つ国民的スポーツ「ツール・ド・フランダース」もある。

ポスターは、1994年にベルギー政府の教育省(文科省にあたる)と環境と社会的平等省がつくった。

「あらゆる職場を女性に開こう」という男女平等キャンペーンに使われた。ロードレースを沿道で応援するしかなかった女の子たちへの、強力なメッセージだ。

この男女平等キャンペーンが「ツール・ド・フランダース」の女人解禁に影響を与えたかどうかは不明だが、10年後の2004年、ついに90年の女人禁制の歴史が破られた。「ツール・ド・フランダース」の正式競技に女子部門が創設されたのだ。

1回目は93キロだった。これが少しずつ延長されて、現在は153キロまで延びた。最難関といわれる石畳の急坂もコースに入れられた。

ベルギーの隣国フランスで、夏に行なわれるのが、世界で最も有名なロードレースの「ツール・ド・フランス」だ。ベルギーからの挑戦者も多く、優勝者を何人も輩出している。

今年7月のツール・ド・フランスが開催される日の1日前、女性サイクリスト13人が、男性プロ・サイクリストとまったく同一条件でレースに挑んだ。全員が23日間、21ステージ、3351キロを完走した。

「彼女たちには表彰台も賞金もマイヨ・ジョーヌ(その日までの最強走者に与えられる黄色のジャージ)もないが、ただひとつの目標『男女平等』を、足で世界に示した」

新聞はこう報じた。

110年以上もの長期にわたって男の牙城だった「ツール・ド・フランス」だが、女性たちに完全開放されるのも、そう遠くはない。

2018年12月10日

 

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