第64回  彼の暴力より怖い「その暴力の告発」(オランダ)

 

伊藤詩織さんは、強姦の被害にあい、婦人科に駆けこんだ。次にホットラインに電話した。そして警察に告訴。「よくあることだから捜査は難しい」と言われた。捜査員が見守る中、等身大の人形で事件を再現させられ撮影された。事件は書類送検になった。

だが不起訴。検察審査会に不服申し立てをし、記者会見をした。すると、「被害者面するな」「ハニートラップでは」というバッシングにさらされた。結局、検察審査会も「不起訴相当」となった。

この事件で、オランダの90年代のポスターを思い出した。

暗闇の中、女性はこう思い悩む。

「彼から暴力を受けたと訴えることは、彼の暴力より怖い」

下段のオランダ語は「親しい間柄の暴力を訴えよう。ホットライン030・2331335:月~金 9時~17時、19時~22時半・性暴力根絶と回復をめざすオランダセンター「トランスアクト」。

オランダ政府が性暴力根絶に取り組み始めたのは80年代で、リードしたのは、当時、男女平等政策大臣だったヘーディ・ダンコーナさん。90年代、私は、福祉健康文化大臣だった彼女に取材することができた。

大臣は1981年、政治家、行政官、女性運動家の3者によるオランダ初の「女性への性暴力会議」を開催。これが大きく報道された。「泣き寝入り」が常だった性暴力が、社会問題になった。

1983年、憲法に「すべての人間は、そのプライバシーを尊重される権利を有する」(10条)、「すべての人間は、その身体を侵されない権利を有する」(11条)という条文が加えられた。この条文が、性暴力対策へのテコとなった。

翌1984年、『性暴力対策白書』を刊行した。タイトルは「暴行、強姦、殴打される女性、子どもへの性的虐待、職場でのセクハラ、ポルノグラフィー、売買春…女性と少女への性暴力と闘うために」。

性暴力に関する情報、支援、対策を提供する公的センターが充実した。民間の活動にも公費が出るようになった。ポスターをつくった「トランスアクト」もそのひとつだ。

日本の何十年も先を行くオランダだが、難民増とともに新たな問題が浮上してきた。強姦されたことが家族に知れると、一家の名誉を汚す淫らな行為をしたとして「名誉殺人」の名で被害者が殺される事件が起きている。それでも被害者の訴えこそ暴力根絶の第一歩だ、とのオランダ政府の姿勢はゆるがない。

日本では、女性の15人に1人が強姦体験を持つ。このうち警察に相談したのは被害者の4・3%に過ぎない。

2018年11月10日

 

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