第63回 「花を贈られて喜んでいる場合か!」(ポーランド)
チューリップの花をくわえた女たち。憎悪と悲哀のこもった目でこちらをにらみつけている。
「どんな時も、口を閉じてはダメだ」。そして「3月8日15時、コペルニクス像の前に集合」と書かれている。
ご存じコペルニクスは、地動説を唱えたポーランドの偉人で、ワルシャワに銅像がある。
ポーランドは、ヒットラーのドイツとスターリンのソ連に蹂躙された悲劇の国だった。1945年にドイツが降伏した後44年もの間、ソ連に支配された。その当時、3月8日の国際女性デーは、男性が女性にチューリップなどの花束を贈って祝う国民の祭日だった。
1989年、共産党の一党独裁が倒れたが、喜びもつかの間、カソリックが息を吹き返した。妊娠中絶は難しくなった。家庭回帰圧力が女たちを苦しめた。
話は飛んで2000年、ニューヨークで国連特別女性総会が開かれた。世界は女性の権利拡大ムードだったが、事もあろうにポーランド国連代表は、女性蔑視で名高い右翼の男性政治家だった。ポーランドの女たちは大ブーイング。同じころポーランドの中堅都市ルブリニェツの婦人科医院で、中絶のために来たと考えられる妊婦を警察官が連れ去る事件が勃発した。フェミニストたちの怒りはピークに達した。
「女性デーに花を贈られて喜んでいる場合か!」。
女性団体は大同団結して女性の権利要求を「マニフェスト」にまとめ、町にくりだした。3月8日は「マニフェスト女性デー」と呼ばれ、女性政策をかかげて抗議デモを行なう日となった。今日のポスターは、その2001年のものだ。
スローガンは毎年変わる。
「私の人生、私の選択。3つのイエス。性教育にイエス、避妊にイエス、中絶にイエス」(2002)、「私たちのからだ、私たちの人生、私たちの権利」(2003)、「女の子には行動が必要」(2004)、「私たちは強い、連帯はさらに強める」(2005)、「一緒に闘おう!自由になろう! 自分に拍手をしよう!」(2006)、「女性の連帯への大行進」(2007)、「巨大スタジアムはいらない、もっと保育所を」(2010)、「搾取はうんざり、ほしいのはサービスだ」(2011)。
今から2年前(2016)の秋、ポーランド女性は、妊娠中絶を禁止する法案に抗議して大々的なデモをした。「女を激怒させるな!」「女の地獄は続く」「私に選ぶ権利を」…。ワルシャワやクラコフなど全国約150の町で黒装束の女たちが広場へと繰り出した。その数15万人!
2日後、ポーランド国会は、妊娠中絶を禁止する法案を賛成58、反対352、棄権18で取り下げた。
2018年10月10日
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