第60回  じゃあ、政治家の顔を女性に変えたら?(ベルギー)


 今から20年以上前のこと、EU(欧州連合)の行政府にあたる欧州委員会の招待を受けて、EUとベルギーの男女平等政策をスピード取材した。

ベルギーのミット・スミット雇用・平等政策大臣の執務室で私の目を奪ったのが、このシンプルで強烈なデザインのポスターだった。

「では、ベルギーの政治家の顔をすげ変えてみませんか?」とフランス語で呼びかけているのだと、秘書は私に説明した。

「もうじきEU議会議員選挙です。私たち政府は、すべての政党に、女性の立候補者を50%まで増やすよう働きかけています。その大キャンぺーンがこのポスター作戦です。私のボス、スミット雇用・平等政策大臣が率先して企画しました。さまざまなデザインのものが作られましたが、とりわけ人気が高いのが、これです」。

「ベルギーはEUの顔と言われていますが、下院212人中、女性は19人、わずか9%。恥ずかしいほど女性議員が少ないんです。この格差を解消するために、大臣は『選挙立候補者リストにおける男女の平等代表制の法律』を提案しました。閣議決定され、今国会で成立予定です」。

ベルギーの選挙は、比例代表制である。有権者は、候補者個人ではなく、政党を選ぶ。選挙に先立って、選挙管理委員会は、それぞれの選挙区の定数以上の候補者名を並べたリストを、政党に提出させる。政党は、このリストを作成する段階で、候補者の3人に1人を女性にしなければならなくなった。守らないと選管から候補者リストを突き返されてしまうというのだ。

先月、日本にもやっと「候補者男女均等法」(正式には「政治分野における男女共同参画を推進する法」)が誕生した。罰則がなくて、ベルギーの法とは似て非なるものだ。

そんなヤワな法律にもかかわらず、「女性の社会進出で、社会全体が豊かになっているとは思えない」(西田昌司)、「法律をつくることで、かえって男女の対立が生じてしまうのでは」(山谷えり子)と反対する国会議員が自民党に目立った。

地方議会にも、「国で法律を決めて勝手にやっている話で、我々が望んでいることではない」(長野県議会自民党萩原清幹事長)との露骨な反対の声もある(注)。

ベルギー女性が選挙権を獲得したのは1948年。日本より2年遅い。しかし、強制力のある法律や啓発キャンペーンを経て、今、ベルギーの国会(一院)における女性の割合は38%、世界193カ国中21番目だ。日本はわずか10%で、世界で158番目!

2018年7月10日

 

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