第59回 パリタリア民主主義(イタリア)
先日、ローマから女性の一行が日本にやってきた。現役の教員、医師、年金生活者など30人余りだった。
「日本女性の現状を話してほしい」と頼まれたので、「家父長制という化け物と闘う日本の女性運動」と題して日本の法制度の女性差別、女性議員の少なさ、最近の女性運動事情について英語でお話しした。
バスが日光からの帰路で大渋滞に遭遇し、夕食なしの真剣討論となった。私の話は、極右ロビー団体「日本会議」や日本を揺るがすセクハラ事件にまで及んだ。
彼女たちと話していると、私がローマの「イタリア女性連合事務所」を訪ねた10年前を思い出した。
同女性連合は1940年にファシストに抵抗する団体として結成された。
その時、このポスターを手に入れた。
「50対50―あらゆる決定の場で男女を半々に」とある。
イタリアでは、フランスの「パリテ」(男女半々にすること)を「パリタリア民主主義」と呼んでいた。
パリテとは、社会が男女半々なのだから、地方議会から国会に至るまで、全ての議会は、男女50%ずつで、というものだ。
2007年3月8日の国際女性デーには、このポスターが一斉に街に貼りだされ、「パリタリア民主主義」を達成させる法案の署名運動がスタートした。事務所スタッフは私に力説した。
「半々になることが自然でしょ。ノルウェーで始まった『少なくとも40%の女性を』というクオータ制では、現在ある父権主義の政治を根本から変質させることはできません。男女半数ずつと決めれば政治は本当に変わりますよ」
ともあれパリタリア民主主義運動を経て、イタリアでは比例代表制の政党リストの上位40%を女性にする法律ができた。施行後初の2018年3月の総選挙で、女性議員は630議席のうち225議席、35・7%と躍進し、今やイギリスやドイツを抜いて世界192カ国中29位。
だが、喜ぶのは早かった。選挙は「五つ星運動」という右派の一人勝ちで中道左派の民主党は大敗北。その結果、女性議員が右に偏ってしまった。私の話を熱心に聞いていた訪日団の皆さんは、左派に近い人が多いらしく、表情は暗かった。
日本でも最近、「候補者男女均等法」(政治分野における男女共同参画推進法)ができた。
イタリアのように比例代表制が基本ではないから、女性候補者40%は難しい。それに、たとえ比例代表制に変わったとしても、もう一つ越えるべき「さらなる大きな壁」があることを、思い知らされた。
2018年6月10日
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