第57回 スカートの風、おそるべし(アイスランド)


 「女の子をなめちゃダメ!あなたのほうがずっと赤ちゃんよ」とでも言っているのだろうか。

この大胆な構図のポスターを目にしたのは、北欧の小国アイスランドのレイキャビクにある女性党事務所を訪問したときだ。

アイスランド女性党は1983年に創設された。1993年、同党機関紙10周年記念号の表紙を飾ったのがこれだ。大きな文字で描かれた新聞の名は、「スカートが巻き起こす風」という意味である。

スカートは、力強く動くとそれ自体が風を巻き起こす。外から風を受けると、スカートはさらにはためき、周りに風を起こす。

つまりは、女たちの新しい動きでアイスランド社会を揺さぶろう、という決意の表現なのだ。 

女性党創設から2年後の1985年、1975年に行なった「女のゼネスト」の2回目があった。秘書は事務をやめ、教員は学校を休み、看護師は病院に行かず、主婦は赤ん坊を夫に手渡した。1980年に就任したアイスランド初の女性大統領も、ゼネストに加わった。

拙著『ママは大臣 パパ育児――ヨーロッパを揺さぶる男女平等の政治』(明石書店)によると、アイスランド女性党の党是はこうだ。

第一に、政治、社会のあらゆるところに女性の声を反映させる。

第二に、生活や生命を大切にして、義務的仕事を分かち合える社会をめざす。

第三に、候補者は全員女性とする。

第四に、ピラミッド型階級思想を持ち込まないために、党首は置かない。

女性党は、63人の国会に6人の女性を当選させたこともあったが、その後、他党と合併して新党「社会民主同盟」ができると、雲行きが変わった。新党に反対する女性党党員たちがフェミニズム、エコロジー、平和主義を掲げて「左派緑の党」を立ち上げたのだ。

時を経て2017年秋、国政選挙で「左派緑の党」は第二党となった。アイスランドを含む北欧はすべて比例代表制選挙なので、いくつかの政党が交渉を重ねて連立政権をつくるのが普通だ。

今回は、「左派緑の党」党首であるフェミニストのカトリーン・ヤコブスドッティルが選ばれた。

フェミニスト首相は、「男女賃金格差禁止法」を今年(2018年)1月1日から施行した。男女同一賃金であることを証明できない25人以上の会社・公共機関には1日6万円近くの罰金が科されることになった。「2022年に男女同一賃金の完成」が目標だという。

「スカートが巻き起こす風」、おそるべし。

2018年4月10日 

 

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