第53回 パパ・クオータ生みの親の訃報(ノルウェー)
2017年11月9日、ノルウェーの親友から「グレーテ・ベルゲがたったいま亡くなった」というメールが届いた。
ジャーナリストのグレーテがブルントラント首相付きの広報担当官に抜擢されたのは1988年。数年後、ノルウェーの子ども・家族大臣にと、首相から懇願された。子どもが小さかったので承諾するまで悩みに悩んだ。「子育てと大臣の両方の仕事をこなせないようでは、今までの女性解放運動は何だったと問われるでしょうね」と記者会見で語った。
ポスターは、彼女が大臣だった90年代後半のもの。子ども・家族省と男女平等オンブッドと男女平等審議会の3機関が手を携えて作成した。
ド派手な黄色のシャツにジャラジャラ・アクセサリーをつけた厚化粧の金髪女性が「私はフェミニストなんかじゃないッ」と大声で叫んでいる。ところが彼女は、次にこうつぶやく。
「でも、なぜ昼休みの電話番はいつも女なの?」
「でも、なぜ最低年金者の9割は女なの?」
「でも、なぜ夫は機械いじりが好きなのに洗濯機には触らないの?」
「でも、なぜリストラがあると真っ先に女が消えるの?」
「でも、なぜ子どもが病気だと私が呼び出されるの?」
グレーテの仕事は早かった。
18週だった育休が、1992年には給与8割補償で44週になり、93年には52週にまで延長された。無給なら3年間休めるようにもなった。ノルウェー全土に6万か所の保育園建設を進めて、待機児童を無くした。
でも、これは序の口。1993年、彼女は「パパ・クオータ」を世界に先駆けて法制化した。
パパ・クオータは、pappapermisjonの私の意訳。父親の育休取得率を上げるための、父親専用の育休保障制度だ。男性が、育児休業をとって家事育児の主たる担い手になることによって、子育ての大切さを知るようになる。グレーテはこれを「愛の強制」と呼んだ。
結果は、1994年まで4%だったパパの育休取得率が、1998年には80%へと激増。さらに出生率も1・7から2・0近くに回復した。現在ノルウェーは、男性の家事時間が世界で最も長く、「母親が世界で最も幸せな社会」といわれる。
世界の模範となったノルウェーの男女平等政策の多くは、グレーテ・ベルゲの息がかかっている。
享年63歳。早すぎる。
2017年12月10日
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