第52回 これぞ民意の反映(ノルウェー)
ノルウェーは、民主主義度世界一といわれている(英誌「エコノミスト」調査機関)。その選挙をこの目で確かめようと、8月末、オスロに飛んだ。ノルウェーに解散はなく、総選挙は4年に1度、9月の第1か第2月曜と法で決められている。今年の投票日は9月11日。
友人は総選挙の候補者なのだが、選挙区を離れて空港まで迎えに来てくれた。これは比例代表制だからできること。党首は演説で忙しいが、普通の候補は名前と顔を売る必要がない。だから個人のポスターや看板もない。あのうるさい選挙カーもない。選挙運動期間もない。「つまり年がら年中が選挙運動。討論会、戸別訪問、チラシ配布、メール、何でもOKだよ」と友人は笑った。
ノルウェーの選挙で最も重要視されるのは政党同士の討論会だ。夏頃から、討論会が頻繁に開かれる。労働組合や商工会議所などさまざまな団体が主催するのは当然として、驚くべきは高校の生徒会が政党代表を招いて討論会を開き、生徒たちが政党代表にガンガン質問をぶつけ、模擬投票まですることだ。テレビや新聞もそれを報道する。
政党が候補者探しを始めるのは、投票日の1年前だ。まず政党内の候補者選定会議で「候補者リスト」を作って、半年前までに選管に届け出る。候補者の「住所」「性」「職業」「年齢」に偏りのないよう気配りは怠りない。こうしなければ、市民からそっぽを向かれる。
今回のポスターは、比例代表制の精神を尊ぶノルウェーならではの超巨大な1枚もの。莫大な製作費が投入され、憲法制定200年を迎えた2014年、オスロ駅前の大きな壁一面に掲げられた。
ノルウェー憲法は、1814年、アイツヴォルという土地で制定された。全国から選ばれた官吏、牧師、教師、軍人、農民、商人ら112人が、会議をしている様子が、絵画で残されている。だがその歴史的絵画に女性は一人もいない。当時、女性は有権者ではなかったのだ。
そして200年後。ポスターは、同じアイツヴォルの館に112人のノルウェー人が集まり、同じように会議をしている風景に構成されていた。メンバーは労働者57人、失業者2人、学生6人、農業1人、移民13人、サーミ1人、性的マイノリティ6人、妊娠女性1人。そして、女性が男性と同数の56人。これぞ21世紀ノルウェー社会の正しい縮図だ。
さて、今秋の選挙結果だが、もちろん、性、年齢、人種、職種……とさまざまな集団ごとに比例代表的に選ばれた。左派と右派の数も拮抗。この世界一の民主精神に乾杯!
2017年11月10日
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