第50回 美術界のゴリラ 30年後も健在(アメリカ)
「メトロポリタン美術館に女性が入るには、裸じゃないといけないのか? 女性作家は近代美術部門の4%以下だが、裸体画の76%以上は女性だ」
鮮やかな黄色をバックに極太の黒い文字。強烈なのはゴリラの面をつけて横たわる裸体の女性だ。
どこかで見たことがある? そう、ルーブル美術館にある超有名な「横たわる女性(グランド・オダリスク)」だ。
新古典主義最後の巨匠ドミニク・アングルが19世紀に描いた。美術史家がこぞって「輝く肌と優雅な曲線の女性美」と絶賛。裸婦の顔は彼が心酔したラファエロの描く若い女性にそっくり、と本に書かれている。
ところが、このポスター、裸婦の顔は毛むくじゃら、大きな鼻の穴、牙をむいた野生のゴリラだ。フェミニスト・アート・アクティビスト集団「ゲリラ・ガールズ」によって創られた。
そもそもの始まりは1985年、ニューヨーク近代美術館が行った「現代絵画・彫刻における国際調査展」。165人のアーティストの作品が展示されたが、、女性アーティストはたった17人、しかも全員白人だった。館長は「この特別展に展示されていない芸術家は、彼のキャリアを(his career)考え直したほうがいい」と臆面もなく述べた。
ニューヨークの女性アーティストたちは、これで女性差別、人種差別を確信。自らを「美術界の良心 ゲリラ・ガールズ」と名乗って立ち上がった。
スタート時代、ゲリラ・ガールズは、スぺリングをゴリラ・ガールズと間違えてしまった。ところが、そのミステイクが創造力を刺激した。ゴリラのマスクをつけて差別撤廃運動をしてみると、ユーモアと皮肉が混じった鋭い批評になった。おまけにメンバーの匿名性を保てるため、狭い美術界でキャリアを失わずにすんだ。
私はニューヨークに住んでいた1980年代、アメリカ女性たちが美術界や広告界の性差別を痛烈に批判していることを見聞きしていた。帰国後しばらくして、ゲリラ・ガールズという女性グループができたというニュースを知った。
あれから30年たった先日、ゴリラ、いやゲリラ・ガールズがアメリカの人気テレビ番組でお茶の間をわかせているのをユーチューブで見た。思わず拍手してしまった。
2017年9月10日
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