第48回  もっとクヌーデルを!(オーストリア)

 

このポスターは、税制改革がオーストリア国会の議題になっていたとき、国民に「税と女性」の関わりを知ってもらうためにつくられた。

制作した「オーストリア緑の党」を私が訪ねたのは2003年冬。緑の党は、既成政党に疑問を抱いた世界各国の若者たちが、1970年代にたちあげた。環境、平等、反戦を政策の中心に据えている。オーストリアでは国会、州議会、市議会に議席を持つ。

ポスターの、自信に満ちたまなざしは、国会議員マドリン・ペトロヴィッチ。党の女性局長だ。

「顔入りポスターは選挙」と思っていた日本人の私は、「もうじき選挙ですか」と聞いたら「選挙とは無関係です」との返事。高さが2メートルもあるので、「こんな巨大なものどこに貼ったんですか」と尋ねると、笑いながら「地下鉄の駅の前です。実際は、これよりもっと巨大です。通行人だけでなく、バスや車からも見えるようにネ」。

社会的テーマを広く知ってもらうためによくやる手法なのだそうだ。駅前など大勢が通るところにテントをはって、そのそばに大きな看板を立てかける。そして1週間、朝から晩まで現職の議員も加わって、通行人と政策論争を交わす。メディアに報道してもらうために、皆で知恵を出し合って、耳目を驚かすような仕掛けやパフォーマンスを心がける。ウィーン旧市街のオペラハウスの前でもやったという。

ポスターのマドリンが呼びかけるドイツ語(オーストリア語)を私流に訳すと、

「情けはいらない。もっとクヌーデルを! 女性に優しい税制改革を、今すぐ!」。

ポイントは、極太黒字で書かれた「もっとクヌーデルを!」だ。クヌーデルとは、じゃがいもとひき肉をこねて団子のように丸めてゆでた家庭料理のこと。ウィーンの人たちは、このクヌーデルを「お金」という意味でも使う。

「税と女性」を知ってもらうイベントは、巨大ポスター(看板)の前のテントで、クヌーデルを作って配るというパフォーマンスつきだった。

通行人は熱々のクヌーデルを食べながら、女性に有利な税制に変えるにはどうすべきかを話し合った。「もっとクヌーデルを!」とお代わりをすると、「もっとお金を!」と叫ぶことになる。胃袋と政策を結びつけたこのアイデア、なかなか冴えている。

2017年7月10日

 

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