第41回  嫌な女はどこにでも行ける(国際フェミニスト・ブックフェア)


 「なんて嫌な女だ」

先日、アメリカの大統領選テレビ討論会で、共和党のトランプが、民主党のクリントンの発言をさえぎって、こんな横槍をいれた。

その昔「嫌な女」呼ばわりされた私は、トランプのような男性から「嫌な女」と言われるのは勲章かも、という気分にもなって討論を聞いた。そして思い出したのが、このポスターである。

スウェーデン語で「いい女は天国に行ける。でも嫌な女はどこにでも行ける」(三井マリ子意訳)。

作者も作成年代も発行元も不明。所持していたのは親友のノルウェー人マグニ・メルヴェール。先々週も、私はノルウェーの彼女の家に投宿したのだが、今もバスルームの壁に飾られてあった。

マグニは大学卒業後、ノルウェーの中都市エルヴェルムにある図書館で司書をしていた。1986年夏のこと、オスロ大学で開かれた「国際フェミニスト・ブックフェア」で、このポスターを見つけた。

フェミニスト・ブックフェアは、1984年ロンドンで初めて開かれ、続く2回目はオスロ。大学キャンパスを使って1週間催された。

女性によって書かれたありとあらゆる本が世界中から集められて、展示販売された。「女性解放と表現」をテーマのセミナーや、世界中の著名なフェミニスト作家を囲んでの、作品を論じ合う講座も設けられた。

マグニが今でも忘れられないのは、エジプトの作家ナワル・エル・サーダウィの話だ。ナワルは精神科医で女性解放運動家。エジプト政府が女性にしてきたことを痛烈に批判した。著作は発禁とされ、国家反逆罪で投獄されたこともあったが、彼女の本は世界中に翻訳され、日本でも何冊か出版されている。女性器切除反対の闘士としても著名だ。

セミナーでナワルは「イスラム社会の女性は、父親や夫の許可が出ないと外出もままならない」と話した。マグニは「1週間、留守にします」と夫と小学生の子ども2人に言って、オスロに出てきた。なのに、エジプト女性は父親や夫の厳しい許諾の眼にさらされて外に出られない。その理不尽に憤慨してポスターを買って帰ったのだとか。

その後、「嫌な女…」はヨーロッパを中心に広まって、スウェーデンのポップ歌手はこの歌詞でヒットを飛ばし、ドイツでは同名の本が出版された。「嫌な女」シリーズのマグカップやTシャツもできた。NGO「働く女性の全国センター」の伊藤みどりさんは、そのキーホルダーを今も愛用している。

私は、このポスターのカラーコピーをマグニからもらい、宝物のように大事に保管して、もう20年になる。

2016年11月10日

 

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