第38回  20年前も今もEUに「ノー」(ノルウェー)


 6月24日、イギリスは国民投票でEUから離脱する道を選んだ。そのとたん、ポンドは急落、株は暴落、首相は交代。世界中が大騒ぎになった。

大方のメディアが言うように、難民急増を恐れる国民の感情に乗る離脱派の作戦が功を奏したこともあるが、私は「EUに加盟して40年。長年のEUに対する懐疑心が票になって表れた」とする『ガーディアン』紙が当たっていると思う。

20年前、ノルウェーはEU加盟の是非を決める国民投票をした。「賛成派の首相が女性、反対派の政党党首も女性」という論戦を取材したくてオスロに飛んだ。

このポスターは、EU加盟阻止のためのノルウェー市民団体「EUにノー」がつくった。下方の建物は国会議事堂。国会を乗っ取るような巨大な木製の像は、北欧神話に出てくる女神サーガ(千里眼を持つ女性)だ。

ノルウェー政府はEU加盟を決定し、加盟申請までしていた。労働党と保守党の2大政党に加え、最も右寄りの進歩党まで加盟に賛成だった。主要メディアも賛成の論陣を張った。

他のヨーロッパ諸国は軒並みEUに加盟したがっていた。

しかし、サーガは勝った。反対52・6%、賛成47・4%。女性の57%、男性の48%が反対した。牽引力は女たちだったのだ。反対派の女たちはこう主張した。

「ノルウェーは不平等をなくすことに社会の富を使ってきた。保育、教育、福祉など公的サービス部門を充実させた。その結果、女性の職場が増えた。すべての女性が無理なく外で働けるようになった。しかしEUは、福祉分野に市場原理を導入し、公的分野を縮小させようとしている。これでは金持ちしか、必要なサービスを受けられなくなる」

「EUの超国家的性格は、ノルウェーの主権を侵す。ノルウェーでは、地方が決定権を握ってきた。“身近なレベルの民主主義”を常に大切にしてきた。EUはこの伝統と相いれない」

「EUにノー」が主催した勝利パーティを覗いた。巨大な木製のサーガがステージを見下ろしていた。登壇した人たちは勝利に酔わず、「さらにたたかおう」と声高らかに気勢をあげた。

その言葉にウソはなかったようだ。ノルウェーの最新調査だと、EU反対74%、賛成14%、分からない13%。

日本人なら多いはずの「分からない」が極めて少ないことに、日本人の私は感服している。

2016年8月10・25日

 

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