第37回 泣き寝入りするな!(ルクセンブルク)
女性は、口をふさいでいたバンドエイドを剥がそうとしている。強盗が使うのはガムテープだが、これは、自らが貼るバンドエイドだ。いわく、「家庭内暴力泣き寝入りはやめよう」
夫や恋人から殴られたり髪を引っ張られたりした女性たちの多くは沈黙する。だから悲劇は顕在化しにくい。
しかし70年代になると、フェミニストたちが家庭内暴力を「人権と自由の侵害」であると訴え始めた。北欧諸国は公的調査を始めた。90年代になると、国連や欧州連合EUが政策課題として取り上げるようになった。
今日の1枚は1995年、EUの中心国の一つルクセンブルクを訪問したときに入手した。ルクセンブルクには欧州裁判所がある。女性差別とたたかって自国の裁判では敗訴したヨーロッパ中の女性たちが、ルクセンブルクのヨーロッパ法廷で自国相手に戦う仕組みを、私は知りたかった。
折から、英国の「性差別禁止法」そのものに不備があると、英国を訴える、そんな裁判が開かれていた。男性の身体で生まれた性同一性障害の英国の原告が、女性に性転換手術をしたら解雇され、英国の裁判で敗訴した事件だった。
欧州裁判所の権限の強さを学んだ後、市内にある女性団体を訪ねた。案内役の女性は開口一番、「EUの法の番人がルクセンブルクにいるからといって、我が国が男女平等先進国だと思ってはいけません」と言った。いかに女性議員が少ないか、いかに女性の雇用問題が解決されていないか、いかに女性への暴力対策が生ぬるいか、教えてくれた。
あれから20年、EU28カ国が行った家庭内暴力に関する最新調査がある。被害経験のある女性は、ルクセンブルク38%で、EUの平均33%より高い。デンマーク52%、フィンランド47%、スウェーデン46%と、男女平等の進んだ北欧諸国が高く、最も低いのはポーランドの19%。
この数字は、夫や恋人から暴力を受けたのに「しかたがないことだ」と思う女性が多いかどうかで変わる。北欧に暴力夫が多く、ポーランドは少ないと単純に決めつけることはできない。
日本の最新調査によると、被害経験のある女性は23・7%で、以前より減った。女性と人権全国ネットワークの近藤恵子さんは「日本社会が、DVを言い出しにくい雰囲気に変わってきている」とバックラッシュ(反動)を危惧する。
2016年7月10日
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