第35回 この髭が目にはいらぬか!(ノルウェー)
男女平等では世界の先頭を走るノルウェーでも、男女の賃金格差は、男100円に対して女85円だ。
2009年、ノルウェーの女たちはこの賃金格差に怒って、「同一価値労働同一賃金」を求める空前の大ポスター作戦に打って出た。女性看護師が、鼻の下に横一文字の筆書きの髭を付けて微笑みながら「ひと筆で格差を減らせますよ」と国民に呼びかけた。
「髭」は男の象徴で、つまりは「髭のあるなしだけでこんな格差があっていいのか」と訴えたのである。
ポスターは、あらゆる駅や公共機関に貼り出され、新聞、雑誌、ネットにも登場した。黒色の筆でサッと書ける簡単さ。子どもの落書きのように見えて、何だかおかしい。この「髭キャンペーン」は大当たりし、一時は町からポスターが消えた。市民に持ち去られてしまったのだ。
作戦を企画したのはノルウェー看護協会だった。男性会員もいるが、主力は女性。9月の国政選挙を射程に入れてキャンペーン特別班を編成し、作戦は年明けから動き出した。協会のホームページには多数の著名人がポスターと同じ絵柄の髭で登場し「同一価値労働同一賃金を支持します」と訴えた。3月8日の国際女性デーには、冷たい雨の中「ひと筆髭」をつけた労働組合の女性たちが、ポスターを首から下げて大通りを練り歩いた。
9月の投票日直前には、新聞の見開き全面を使った新聞広告も出した。病院のナースステーションらしき部屋で、主要8政党の党首と白衣の看護師が会議をしているかのような合成写真。看護師の「性差別賃金を減らす具体策はなんですか。いつ、それを実行しますか」という質問が大見出しとなり、各党首の「特別予算を組みます」などという弁明が書き込まれている。作戦の総経費は300万クローネ(約4500万円)。
日本の賃金格差は、男100円に対して女66円。これは正職員に限ったものだから、非正規を含めると女性は50円程度だろう。地球全体で見れば、格差が縮まる方向に動いているのだが、問題はいつ達成されるか、だ。
ダボス会議で知られている「世界経済フォーラム」は2015年末、世界の男女賃金格差が解消するのに、あと何年かかるのかを諸々のファクターを勘案して試算した。それによると、118年だとか。
2016年5月10日
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