第5回 人形を抱け!(オランダ)
遠くから見ると、宇宙服を着た女性のようにも見えるが、違う。これは、いわゆるダッチ・ワイフと呼ばれるゴム人形だ。男性のセックス処理のために作られた女性の等身大サイズの人形なのである。人口の口、人口の胸、人口の性器。
ひとつ間違えばグロテスクな画像になりかねないポスターだが、実は1991年、性暴力根絶を訴えるために男たちの手で作られたところが面白い。
制作者は「女性への性暴力に反対する男性連合」。1983年、オランダのアムステルダムで創設された男性の運動グループだ。女性への性暴力を平気で続ける男子や男性の意識を、男性同士の対話によって変革しようという目的で活動を開始した。
ダッチ・ワイフは、その昔、世界中の男たちが、戦場や航海、はたまた日本では初の南極越冬隊にも連れて行ったと言われている「セックスのための人形」だ。18世紀当時、オランダと覇権争いをしていたイギリスが、オランダを蔑んでこんな名前をつけたのだとか。
照明の効果で目のあたりが暗いために、赤い口だけが強調されている。髪の毛を逆立て、両手を上げた格好の人形は、うめき声をあげているようでもあるし、驚いているようでもある。
右下をよく見ると、洗濯バサミで膝のあたりがつままれている。このゴム人形は洗濯された後に、ひもに干されているのだろう。
オランダ語で書かれた真っ赤なカード5枚は、アングリ開いた赤い口から発する人形の声だ。言葉がブツブツ切れて、壊れた機械音のようだ。
「ガールフレンド」
「ほしいなら」
「いつでも」
「あなたのために」
「いかが?」
最後に、「あー、男よ、人形を抱け!」と叫ぶ。
ポスターの最下には、「女性への性暴力に反対する男性連合」の理念がまとめられている。
「双方がセックスしたいと思ったとき初めて楽しいセックスができます。男の子や男性の多くは、そのことがよくわかっているし、そういうセックスをしたいのです。でも、中にはパートナーがいやだと言っているのに、セックスをしたがる男の子や男性がいます。あげくのはてに、暴力を使ってセックスしようとする人さえいます。無理矢理セックスすることは強姦です。たとえ相手が妻であろうと、恋人であろうと。それがわからないなら、女性と人形の違いについて理解しよう。この問題について話しませんか。電話XXX―XXXX」
オランダは、1983年、性暴力に立ち向かうために憲法に次の2条を追加した。
「10条 すべての人間は、そのプライバシーを尊重される権利を有する」
「11条 すべての人間は、その身体を侵害されない権利を有する」。
その後、女性たちによる女性の駆け込み施設や、性暴力撤廃に関する調査活動・運動が政府の奨励策によって、さらに活発になった。当時の歴史的1枚がこれである。
2013年4月10日
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