第4回  娼婦でも女中でもない!(フランス)

 

昂然(こうぜん)と顔を上げ女たちは発言する――「私たちは、娼婦でも女中でもない」。

白黒写真にショッキングピンクのフランス語が浮かび上がる。Putesは娼婦。Soumisesは召使、転じて主婦という意味にも使われる。この「娼婦か主婦か」は、その昔、女性の立場を表すフランスの決まり文句だった。

ポスターでこちらを見すえているのは、ほぼ全員アジアアフリカ系の女たちだ。彼女たちは、移民としてやってきたか、または移民の家庭に生まれ育ったフランス人だ。多くは、清掃、ウエイトレスなど人が敬遠する低賃金で不安定な労働に従事し、フランス社会を支えてきた。

このポスターは2001年に制作された。制作者は「女性ゲットーに反対し平等を求める女性の行進」という女性解放運動団体だ。女性ゲットーとは、女性が多い労働現場をさす。男性中心の文化や固定観念を否定し、個性あふれるひとりの人間としてフランスに生きる移民女性を世に出そう、という運動である。

ポスターのスローガン「娼婦でも女中でもない」は、運動のプロジェクト名ともなっている。プロジェクトは、1989年、フランスの移民女性たちの手で始まった。3月8日の国際女性デーには、スローガン「娼婦でも女中でもない」を掲げて、路上を行進するのだという。フランスで、今もっとも元気な女性運動のひとつだそうだ。

私がこのポスターを入手したのは、2003年夏だった。勤務していた豊中市男女共同参画推進センター「すてっぷ」で開催中の「北欧・EUポスター展」に、フランスのポスターを加えようと休暇を利用して訪仏した。フランスの女性解放を象徴するようなポスターが何点か手にはいった。そのうちの1枚が、これだった。強烈なメッセージに心を打たれた。縦60センチ、横1メートルの大きさにも圧倒された。

私は、後に、男女平等を嫌う政治勢力の圧力で「すてっぷ」を追われることになるのだが、私が「すてっぷ」を去る直前まで飾られていたポスターが、この「娼婦でも女中でもない」なのである。

今は、我が家の階段の上部に飾られ、玄関に入って来た人を見すえている。

2013年3月10日

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