第1回 愛は盲目(ノルウェー)
身近にいる男性が女性に暴力をふるう事件が後を絶たない。時に、その暴力は、精神に異常をきたすほどの障がいを与え、時に、死に至らしめる。しかし、家庭での女性への暴力は、長い間、社会的に封印されてきた。
それに「ノ―」と言ったのは女性たちだ。このポスターは、ノルウェーにおける女性への暴力を撤廃する運動の一環で作られた。前面に大きく白く浮かび上がるのは、女性の左腕だ。鳥肌がたっている。その腕と、文字の背後に見えるのは女性の顔だ。まぶたの下の黒い傷跡、薄汚れた髪の毛から、女性は、殴打され、辱められていることがわかる。上にあげた腕の手首は見えない。両手首を縛られているのだろうか。見る者に暴力の恐怖を与えずにはおかない。
真ん中に書かれているノルウェー語は、「愛は盲目」。1990年代末、ノルウェーのクライシスセンターが作成した「目を見開けキャンペーン」のなかの1枚だ。盲目ではいけない、目を開けと、叫んでいる。
クライシスセンターとは、暴力を受けた女性たちの避難所で、日本でいうDVシェルターをさす。
ノルウェーにおける女性の避難所の歴史は、ヨーロッパでは英国に次いで古い。
1976年、ブラッセルで開かれた「女性への犯罪」の国際会議に女性運動家たちが参加した。帰国後、彼女たちは、暴力を受けた女性のための相談電話をポケットマネーで新設した。毎晩、電話口には女性の悲鳴が届いた。1年間の全記録をもとに、報告書「女性への暴力の実態」を作成し、「女性への暴力は社会問題である」と訴えた。
この訴えを受けて、メディアや国会で活発な議論が起こった。「夫から妻への殴打・虐待は、ささいな喧嘩ではない、社会における男女の力関係が反映した暴力である」「深刻な社会問題なのだから公的支援が必要だ」。こういう声が広がりはじめた。
現在、ノルウェー全土の約50カ所に避難所があり、女性たちやその子どもたちに安心できる場所を提供している(2010年より暴力を受けた男性も対象となった)。避難所は、中央政府と地方政府から補助金を受けている。しかし、まだ予算は足りないため、寄付金集めをかねた広報キャンペーンをしばしば行っている。
2012年10月10日
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