第11回 「男の連帯」に一太刀!(北欧理事会)
1994年5月、北欧フィンランドの国会を訪問したとき、このポスターを入手した。
フィンランド国会には、超党派の国会議員で作る「男女平等審議会」という非公式の会があり、その会長テゥーラ・クィティネン国会議員が、別れ際、お土産にと私に贈ってくれたのだ。
彼女は、「看護師から地方議員を経て国会議員になった」と自己紹介した。「現在、国会議員には、看護師だった女性が13人もいるんですよ」と言って、私を驚かせた。
「私たち男女平等審議会は、月に2回集まって女性に共通した問題にかかわる議員提案の法律の草案をつくったりします。これは、フィンランドも加盟している北欧理事会のポスターです。昨年、男女差別賃金をなくそう、という大問題をテーマに話し合いがありましたが、その時に使われたのが、このポスターなのです」。
北欧理事会とは、北欧諸国が、団結をめざして閣僚レベルで協議会を開き、政策のすりあわせをする国際機関だ。
国家主導型のASEANとは異なり、地域に根付いた民間協力を国家が後追いする形で作られたという。デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、アイスランドの5カ国に、グリーンランド、フェロー諸島、オーランド諸島の3自治領が加わって構成されている。
その北欧理事会の主要政策のひとつに、「男女平等推進」がある。「男女平等とは、権力と全体への影響力の男女均等配分を意味する」と、明快に規定している。
推進拠点は「北欧女性学とジェンダー研究所(NIKK)」だ。長年ノルウェーに本部があったが、現在はスウェーデンに移った。
ポスターに描かれている3人に注目してみよう。
右の男性は、あごのあたりやおなかの肉づきからみて中年の管理職らしい。彼は中央の若い男性の胸元を見て、「君も同じネクタイだね」と、うれしさを爆発させる。ブラザーフッド、そう、“男同士の連帯”というヤツだ。
でも、左の女性は、ネクタイなどしていない。胸元のネックレスに手をあてて、疎外感を隠しきれない表情だ。
男性と女性は、同じ種類の仕事を同じような責任感を持ってやっても、その評価は同じではない。
それは、評価する側の管理職(多くは男性上司だが)が、自分と同じ性ではないことに起因することが多い。つい、「女は出産する」「女はすぐ辞める」「女は力が弱い」「女は家庭に気をとられる」などと思ってしまうのだ。
ポスターのイラストは、こんな神話に惑わされている男性上司を、一瞬の表情で描いている。
女性差別賃金撤廃をめざして共通戦略を協議しつづける北欧諸国では、女性の賃金は、男性の8割ほどにまで上がった。一方、日本は、5~6割程度にすぎない。
ポスターの標語は、上から「男女平等」「女性の賃金の神話」「賃金が決まるまでの誤解と真実」。
ノルウェー語をちょっとかじった私は、今なら、このポスターの言語がノルウェー語だとわかる。しかし20年近く前の私は、フィンランドでフィンランド国会議員から贈られたポスターだから、フィンランド語だと思いこんでいた。
2013年11月10日
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